大阪府・市への住民監査請求を「却下」 青木泰さんのレポート

―大阪府・市への住民監査請求を「却下」―

監査委員の役割を否定する判断

2013年3月17日 青木泰


大阪市と大阪府は、それぞれ400名、1200名弱の請求人の住民監査請求を却下しました。「却下」と言うのは、住民監査請求を受理し、審議すらせず、門前払いにするということです。(これに対して受理した上で審議した時には、「請求に基づき勧告」もしくは「棄却」となります。)

監査請求にあたり請求人が住民ではないと言った原告適格問題や請求内容が財務会計上の問題ではないという形での「却下」はこれまでもありますが、今回のような「却下」は、住民監査請求の意味を否定するような措置です。


1)住民監査制度の意味を理解しない監査委員

住民監査請求は、もともとイギリスで生まれ、米国の各州で行われていた「納税者訴訟」を原型にしたもので、1948年自治法に組み入れられ、1964年の自治法の改正で住民監査請求と住民訴訟と言う形で定式化されました。

元々米国での納税者訴訟は、住民が地方公共団体に財産を信託し、それを公共のために運用させるということから発している制度で、住民投票、リコールと並んで住民側からコントロールする政治的手段の一つとして機能してきたものです。

地方公共団体及びその機関、職員(首長を含む)の違法、不正な行為による資産の減少を防止するために、資産の減少につながる違法行為があれば、訴訟提起できるものとして発展し、日本では、納税者でなくとも居住住民(法人を含む)ならば請求できるようになっています。

住民監査請求は、住民訴訟にあたり裁判で訴えるためには、この請求を行わなければならない前提的な手続きです。一方自治法上このような制度を設けている(監査委員(自治法195条)住民監査請求制度(同242条))趣旨は、住民から地方公共団体の不正や違法行為に対しての訴えがあった時には、監査委員が審査し、行政内部で防止、是正し、損害の回復させようとするものです。

ところが、今回の住民監査請求に対しての「却下」は、下記に示すよう「却下理由」が支離滅裂で、自治法上の制度設計の意味を解しない監査委員が、存在を自ら否定するような判断といえます。


2) 住民監査の請求内容と「却下理由」の問題点

この住民監査請求は、大阪府&大阪市が受け入れようとしている岩手県のがれきの受け入れ中止を求めたものです。理由としては、がれきの広域化は、宮城県発はすでにこの3月末で終息させる状況にあり、岩手県発もすでに埼玉県では、期間を前倒しにして終了し、広域化の必要性が疑われる状況にある。またがれきの広域化にあたり、禁止されている再々委託を行い、このまま受け入れを進めることは、法令に違反するのみならず、大阪府&市への損害を与えることになるというものでした。

ところが、監査請求書が提出された1月18日から、約50日近く経過した後、何と却下し、却下を伝える文書に記載されている理由は、請求内容を曲解し、請求を受理して審議に入りたくないという意図があからさまな内容になっています。
府・市の両方に共通しているのは、がれきの広域化への批判やそのチェックならば、住民監査になじまないということです。しかし請求内容には、このような主張は行われていません。
今回の請求は、個別大阪の受け入れについてチェックすることを求めたものであり、がれき広域化の政策の是非一般を問うたものではありません。又問うはずもありません。
全国状況が記載されているのは、全国的に終息過程にあるものが、なぜ今大阪で受け入れを行うのか、岩手県が本当にがれきの広域化を必要としているのかを、疑問点として問うたものです。
大阪府・市の監査委員のこのような判断は、受理を避けるためのこじつけた解釈と言ってよいでしょう。

再々委託問題については、岩手県が、大阪府に委託し、その大阪府が大阪市に委託したため、この段階で再委託になり、その大阪市が焼却灰の運送と埋め立てを業者委託しているため、その段階で再々委託になります。各レベルにおける契約書も添付して請求していますが、大阪府の対応は、再々委託が問題であるという「具体的な理由が書かれていない」と言うものです。禁止法令を示しているのは、この上ない「理由」提示だと思いますが、それでなおかつ「理由が書かれていない」と言うのだから驚くほかはありません。

また大阪市は、環境省に問合せし、「再々委託にあたらない」と言う回答を得たということが却下の理由として示されています。しかし行政官庁の言い分と専門の学者にまで違法確認を取って主張している住民の言い分をどちらが正しいのかを審議するのが住民監査の役割です。内容の判断をするために、環境省に問い合わせするのなら、なぜ請求を受理して審査に入らないのでしょうか?
監査委員は、行政の見解を示せば事足りるのでなく、その点についての請求人側の主張を十分に聞く必要があるのです。

大阪市は、市に発生する損失の予想に対して、「岩手県が負担することになっていて基本的に本市に負担が発生する関係にはない」と答えています。しかし違法で不当ながれきの受け入れを進めれば、交付金の支給が行われないことになるという請求者の主張には、そうしたケースがあるとも無いとも、何ら答えていません。

しかし今回のがれき広域化においては、通常でないことが岩手県発のがれきの処理で次々に起こっています。埼玉県へは、1万トンを2年間かけて処理してほしいとなっていたのが、2か月半後に千トンしかなかったから打ち切ることになりました。静岡県でも、2万3千トンの予定が、3500トンしかなく今年度で打ち切りです。

通常の契約関係においても、予定通りにものが運ばれてこなければ、さまざまな準備や予定企画の上で大きな損失が発生することになります。その点から言えば監査委員が行わなければならなかったのは、本当に岩手県ではがれきの処理に困っているのか?どの程度処理しなければならない量があり、岩手県内でどれだけ処理でき、広域化がどれだけ必要なのかを受け入れ自治体側でも掴んでおくということでした。そのような審査に入ればよかったのです。
ところが建前論を示し、「却下」してしまったのです。
大阪府のもう一つの却下理由もこれの負けず酷いものです。

違法不当の理由を個別具体的に示していないので却下するというのです。内容上個別具体的に示されていますが、100歩譲ってそのように示されていないと理解したならば、監査委員は請求人(代表)に補正を命じればよかっただけです。「住民監査請求に形式的な不備があって、それが補正可能なものである場合には、補正を命ずることなく却下することは違法であるという考えが通用している。」(「住民訴訟と自治体財務」学陽房)


3) 再度の監査請求の権利

今回の大阪府・市の監査請求に対しての「却下」措置は、どこから見てもおかしいものですが、監査委員が監査委員としての役割を果たさず、今回のように放り投げてしまった時には、請求者は行政訴訟に訴えることができますが、このような監査委員に対して、別の手立てで襟を正すように求めることもできます。それが、「再度の監査請求の提出」です。

「監査委員が適法な住民監査請求により監査の機会を与えられたにもかかわらず、これ却下し監査を行わなかったため、当該行為又は怠る事実の違法、不当を当該普通地方公共団体の自治的、内部的処理によって予防、是正する機会を失くした場合には、当該請求をした住民に再度の住民監査請求を認めることにより、監査委員に重ねて監査の機会を与えるのが、住民監査請求の制度の目的に適合すると考えられる。」(最高裁平成10・12・18)

と再度の監査請求の権限を認めています。そして監査委員には、「重ねて」と強調しながら監査の機会を与えることを求めています。さらにその監査請求を「当初の監査請求と対象を同じくするからと言って」却下することがないように釘を刺しているのです。


4) 監査委員はがれきの受け入れの実態の直視を!

振り返って考えた時、自治体は私たちの社会を支える最も身近な存在です。
地方自治体が不正や違法行為を見逃すことなく、運営されて行くというのは、幸せな社会を築く上での1丁目1番地の出来事です。その自治体の運営を財政の点から監査する役割が監査委員です。

ところが、大阪府・市では、監査委員を置き、報酬を支払うこと自体が、何よりも税金を無駄に遣うことになるというシャレにもならない事態が起こっています。

維新の会議員も府・市とも監査委員には含まれていますが、たとえ同一政党の代表人格が、府・市の首長であったとしても、監査委員は、府・市の公金の不当・違法な支出がないかを監視するのが役割です。監査委員になった以上、公共的な役割を放棄し、府・市の首長の施策を守るという対応は、許されません。今回のような「却下」を出し、監査を避けるというのは、議員になっても議会に一度も出席したことがないに等しい行動と言えます。

監査委員が、請求を受理して審議に入ることすら憚られる事態が、がれきの受け入れと言えます。監査委員にがれきの受け入れという不正・違法な事態に真正面から向かい合うように求めて行きましょう。





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