アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法案 by 兵庫県弁護士9条の会 深草徹氏

兵庫県弁護士9条の会の深草徹弁護士が、特定秘密保護法を米国の秘密保全法と比較し、「アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法案」として、まとめてくれました。

アメリカと比べてこんなにひどい特定秘密保護法案

深草徹氏のtwitter

1 はじめに

 「秘密軍事情報を受領する締約国政府は、自国国内法令に従って、秘密軍事情報を提供する締約国政府により与えられている保護と実質的に同等の保護を与えるために適当な措置をとる」
 これは、2007年8月10日、福田康夫政権が日米間で取り交わした「日米軍事情報包括保護協定」(General Security of Military Information Agreement。通称 GSOMIA・ジーソミア)と呼ばれる協定の一条項である。署名者は当時の外相麻生太郎と米国駐日大使シェーファーであった。
 米国は防諜法(合衆国法典793条ないし797条)により外国政府に渡す目的等スパイ目的の国家秘密の漏えい、取得行為等について10年以下の自由刑に処すると定めている。そのためジーソミアの上記条項は、我が国でも新たな秘密保全法制をつくらなければならないとの動機づけとなり得る。
 自民党は、かって、1985年、国家秘密法案(スパイ防止法案)を制定することを企図した。「防衛及び外交」に関する国家秘密を外国に通報する目的、又は不当な方法で、探知し、又は収集した者で、その探知し、又は収集した国家秘密を外国に通報した者、さらにはそのようにして我が国の安全を著しく害する危険を生じさせた者等を死刑、無期又は3年以上の重罰に処することなどを内容とする議員立法の法案である。しかし、これは、第102国会に提出されたものの、国民の大きな反対運動に自民党内からの造反も続出し、審議未了で廃案となったのであった。自民党は、すぐさま対象を「防衛秘密」に絞り、死刑を削除、かつ「出版又は報道の業務に従事する者が、専ら公益を図る目的で、防衛秘密を公表し、又はそのために聖堂な方法により業務上行った行為は、これを罰しない。」と条項を設けるなどした修正案を作成し、国会に再提出しようとしたが、国民の反対運動はおさまらず、結局、再提出を断念したのであった。自民党にとっては大きな挫折経験である。
 しかし自民党及び政府、とりわけ外務・防衛・警察当局は、決して秘密保全法制の策定を断念したわけではなく、虎視眈々と機を窺っていたのである。ジーソミアの締結は、彼らにとっては僥倖であった。まさしくチャンス到来とばかりに、彼らは、ジーソミアの上記条項に従い、米国から提供されたきみ軍事秘密情報の漏えい等について米国並みに10年以下の懲役に処するよう法整備をしなければならないという名分のもとに秘密保全法制の構築に乗り出したのである。従って、ジーソミアの上記規定は、今回の特定秘密保護法案の原動力であり、言ってみるならば特定秘密保護法案はジーソミアの上記条項を実施する名目の法案なのである。
 しかし仮に、彼らの言い分に従うとしても、ジーソミアの条項実施法案であるからには、秘密の範囲を米国と同等にし、秘密指定・解除・保存・開示の条件も実質的に均衡がとれていなければならないことは事の道理、私が、米国の秘密保全法制と特定秘密保護法案との均衡性にこだわってきた所以はここにある。いわば政府の名分を逆手にとった特定秘密保護法案批判である。


2 米国の秘密保全法制

(1)公務員の秘密漏えい
 米国では、合衆国法典第798条で、「職員は職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」と定め、1年以下の自由刑または1000ドル以下の罰金もしくは併科できるとしている。また大統領令第10450号は「国家安全保障に関する情報または法律で公開を禁止している情報を故意に、かつ根拠無しに他人に公開すること、もしくは安全保障に関する規則を故意に違反または無視した場合、当該職員の任用を終了させることができる」と定めている。
 従って、公務員の単純な秘密漏えいについては、1年以下の自由刑と罰金刑が科され、かつ免職とされるだけであり、第三者は、当該秘密漏えいに関与ししても規定はなく、処罰されない。
 ところで我が国でも、公務員による秘密漏えいは、本人が懲役1年以下懲役刑と罰金刑が科され(国公法100条1項・109条12号、地公法34条1項・60条2号)、懲戒免職となり得る(国公法82条1項、地公法29条1項)ことは米国と同様であるが、第三者による秘密漏えいのそそのかし、ほう助等(これらは公務員の秘密漏えいの実行行為の有無を問わない独立罪である。)も同様に処罰されることが定められており(国公法111条、地公法62条)、この点において米国と際立った相違がある。我が国は、第三者に対する網が張りめぐらされており、報道機関、研究者及び市民に対しての行政情報へのアクセスに対する重大な威嚇効果がある。

(2)防諜法
 米国では、上述した防諜法(合衆国法典793条ないし797条)が秘密保全法制の基幹部分を構成している。防諜法では、外国政府に渡す目的等スパイ目的により国家秘密を漏えい、取得行為国家秘密を外国政府を助けるために収集し、渡す行為、いわゆるスパイ行為が処罰される。罰則は、基本は10年以下の自由刑・罰金である。
但し、戦時敵国に渡した場合やそれによって合衆国諜報要員を死亡に至らしめた場合、軍人が行為者である場合など加重類型がある。
 例えば合衆国法典第793条( e)は、国防に関する情報に対して法律上認められていないのに所持し、アクセスし、コントロールしている者が、それが合衆国に危害を及ぼし或いは外国に有利に用いられると信じる理由がある場合に、そのような情報を悪意で、それを受け取る資格のない者に通信・送達・送信し、通信・送達・送信させ、通信・送達・送信を試み、或いは通信・送達・送信されるよう試みる行為、若しくは合衆国職員の要求にも関わらず、悪意でそのような情報を保持し、送達することを拒む行為を禁止し、これら禁止に違反する場合には10年以下の自由刑又は罰金に処することとされている。この法文を見るだけでも、犯罪とされる行為に客観的な縛りをかける工夫がなされている。
 この防諜法の内容をなす国家秘密の指定と解除は、大統領令13526号によって厳格に定められている。

(3)大統領令13526号
 オバマ大統領は2009年12月「秘密指定された国家安全保障情報」と題する大統領令13526号を発出した。これにより従来の秘密指定制度は大きく変更されることになった。
 大統領令13526号の内容を抜粋して示すと以下の如くである。
 まず秘密指定の対象となる情報がわずか8項目に類型化され、その内容は簡明かつ具体的に定められている。たとえば一項目目は「軍事計画、武器システム、又は作戦」とある。
 秘密指定権者は、これら8項目の類型の情報のうち、正当な権限によらずに開示されたときは国家安全保障上の利益に損害がもたらされる結果が生じることを合理的に予期しえると決定し、かつ、その損害を特定・記述できることを要件として、秘密指定ができることとされている。この後半部の規定は非常に重要で、安易な秘密指定は排除されることになる。
 以下の如き秘密指定は禁止される。 ①法令違反、非効率の助長又は行政上の過誤の秘匿、 ②特定の個人、組織又は行政機関に問題が生じる事態の予防、 ③競争の制限、又は ④国家安全保障上の利益の保護に必要ない情報の公開を妨げ、又は遷延させる目的で行う秘密指定。
 秘密情報を適正な権限に基づき保有している者は、秘密指定が適正ではないと判断した場合、行政機関の内部手続きに従い、不適切な指定等について当該行政機関に異議申立をすることが推奨・期待される。異議申立に対する行政機関の判断に不服であれば省庁間秘密指定審査委員会に審査請求できる。
 要件を満たさなくなったときの義務的解除・公表による公共の利益が大のときは裁量的解除、情報保全監察局長の解除請求、一般市民からの解除請求・当該行政機関の決定に不服あれば省庁間秘密指定審査委員会への審査請求、国家秘密解除センターによる解除促進など指定の適正を担保する制度が幾重にもある。
 秘密指定を行うときは ①10年未満 ②10年もしくは ③25年のいずれかの秘密解除機関を設定しなければならない。 ①、 ②については要件を満たせば25年間まで延長できる。例外も厳格な要件を満たせば認められるが、秘密解除期間の杜撰な設定・運用に対しては、これをチェックする仕組みも幾重にもある。

(4)特定秘密保護法案
 特定秘密保護法案は、 ①取扱義務者や業務知得者による特定秘密の漏えい、第三者による特定秘密の漏えいの共謀・教唆・扇動②第三者による特定秘密の不正取得行為等が、10年以下の懲役刑と罰金刑が科されるというものである。このうち ①については単純に漏えいする行為そのものが犯罪を構成し、 ②については、去る11月26日、衆議院を通過した修正案において「外国の利益若しくは自己の不正の利益を図り、又は我が国の安全若しくは国民の生命若しくは身体を害すべき用途に供する目的」の行為が犯罪を構成するいわゆる目的犯とされた。一見、 ②については「目的」を付加したことによって国会提出時の案より限定的になったかのように見える。しかし、これは内心の意図を示したものに過ぎず、しかもその内容があいまいで抽象的であることは上述の米国合衆国法典793条( e)の記述の仕方と比較されば一目瞭然である。これをして犯罪構成要件を絞りこんだと評するのはおこがましいと評さざるを得ない。
 この犯罪構成要件の定め方ひとつを見るだけでも特定秘密保護法案は米国防諜法と比べて表現の自由・知る権利を著しく制限することになるのは明らかである。言うならば国公法・地公法の秘密漏えい罪と第三者処罰規定、それと並置して、処罰対象行為と人的範囲を拡大し、いきなり10倍の懲役刑が科されることに飛躍を遂げることになるのである。
 特定秘密保護法案と米国防諜法との差異は、それだけではない。秘密の指定と解除、秘密へのアクセスの手段に雲泥の差があるのである。項をかえて日米の比較を具体的にしてみることとする。


3 秘密保護法案は、米国秘密保全法制と比べてこんなにひどい。

 以上の知見もふまえつつ、米国秘密保全法制に比べて、特徴的な点に絞って、秘密保護法案を対比してみたい。

(1)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その1
 米国ではオバマ政権のもとで、「透明性があり開かれた政府」をめざし情報開示のための積極策がとられている。「情報自由法」の活用、「過剰秘密削減法」の制定など。米国では国家情報は国民のもの。表現の自由・知る権利を徹底し、情報開示を進める方向を鮮明にしている。日本とは正反対である。

(2)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その2
 米国では秘密保全法制の柱は「秘密指定された国家安全情報」と題する大統領令13526号。これによると秘密指定対象事項は8項目に類型化されており、非常に限定的で、簡潔、明瞭である。わが秘密保護法案の秘密指定対象では23項目、あいまいで、実質上無限定に等しい。

(3)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その3
 米国では、 ①法令違反、非効率の助長又は行政上の過誤の秘匿、 ②特定の個人、組織又は行政機関に問題が生じる事態の予防、 ③競争の制限 ④国家安全保障上の利益の保護に必要ない情報の公開を妨げ又は遷延させる目的の秘密指定禁止。秘密保護法案にはこのような規定は存在しない。

(4)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その4
 米国では秘密指定権者は「正当な権限によらず開示されたときは国家安全保障上の利益に損害がもたらされる結果が生じることを合理的に予期し得ると決定し、かつその損害を特定・記述できる要件」を充足しなければ秘密指定できない。秘密指定には非常に厳格な制約がある。秘密保護法案では、行政機関の長の裁量、その考え次第でどうにでもなる。

(5)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その5
 米国では、 ①上・下院の特別委員会が秘密指定の濫用を審査する、 ②指定に対する内部からの異議申立が奨励され、内部措置に不服があれば省庁間秘密指定審査委員会(合議制機関)への申立ができる。秘密保護法案では、行政機関の長がした秘密指定は国会をも拘束するし、異議申立の手続もなし。

(6)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その6
米国では、 ①国立公文書館の情報保全監察局長から秘密解除請求、 ②市民・研究者らからの秘密解除請求、 ③国立公文書館に設置された国家秘密解除センターからの秘密解除請求が、それぞれできる制度が設けられており、省庁間秘密指定審査委員会が裁決する。秘密保護法案には解除請求の道は一本もない。

(7)秘密保護法案、米国の制度と比べてこんなにひどい その7
米国では秘密期間は10年未満、10年、例外的に25年、例外は限定列挙。特別の期間を定めるには合議制機関の省庁間審査委員会が審査する。国立公文書館移管文書については同館長が秘密解除の措置をとる。秘密保護法案の指定期間とその延長は杜撰な規定であり、解除の保障なし。

(8)秘密保護法、米国の制度と比べてこんなにひどい その8
米国では情報保全監察局(長)による秘密指定の行政監察が行われ、毎年大統領宛秘密指定実施状況の報告書が作成・公表される。秘密文書等の保管も監督される。秘密保護法では秘密指定実施状況は公表されず文書の廃棄防止措置が定められていない。現状は保存期間満了の公文書は殆ど廃棄されている。


4 日米の秘密文書漏えい、公開の事例比較 ―エルズバーグ事件と西山事件

(1)エルズバーグ事件
 1971年6月、1949年から1969年に至る米国のベトナム政策の推移を総括した文書で、インドシナの共産主義化を過大視し、解決の見込みもなく膠着状態を維持するために泥沼に足を踏み込み、足を取られていくベトナム戦争の経過と現状を容易に読み取れる米国国防総省秘密報告書(またはマクナマラ報告書。以下「ペンタゴン報告書」という。全文で7000頁に及ぶ膨大な文書。)を、その執筆者の一人であるダニエル・エルズバーグ氏が、マイク・グラベル上院議員とニューヨーク・タイムズ記者に、その主要部分をコピーし、交付した。
 ペンタゴン文書は、最高度の秘密である「極秘」に指定されていたが、エルズバーグ氏は、ベトナム戦争がいかに不正義の戦争であるかを告発し、ただ解決の目途もなく米兵とベトナム人の死者を重ねるばかりの現状を一刻も早く終結させる目的で、身の危険もかえりみず敢えて漏えいに踏み切ったのであった。ニューヨーク・タイムズ紙は1971年6月13日からこれを連載・公表、これにワシントン・ポストなど他紙も追随、上院でもグラベル議員が公表に踏み切った。これによりベトナム反戦の運動と世論はいやがうえにも高まり、米政府は、ラオスへの侵攻にまで踏み切っていたベトナム戦争を終結させる決断を余儀なくされたのであった。エルズバーグ氏は米国政府から米国における最も危険な男と敵視されたが、彼の英雄的行為がベトナム戦争にとどめを刺したと言っても過言ではないだろう。
 さてこの米国言論史に残る著名事件の法的な顛末はどうなったであろうか。米国司法省は、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、ペンタゴン文書の掲載の差し止めを求める訴訟(仮処分)をニューヨーク連邦地裁に提起するとともに、エルズバーグ氏を合衆国法典793条( e)項違反などでロサンゼルス連邦地裁に訴追した。しかし、前者の掲載差し止め訴訟(仮処分)は、最終的には連邦最高裁判所で却下、後者の刑事裁判は、「政府の不正」があったとして公訴棄却で終結した。勿論、これは外国政府への交付などスパイ目的など微塵もない秘密情報の漏えいであったので、マスコミ関係者や関与した議員らは刑事裁判の対象にさえなっていない。

(2)西山事件
 故佐藤栄作氏を首班とする佐藤内閣は、1971年6月、沖縄返還協定調印にこぎつけ、沖縄の核抜き・本土並み返還を獲ち取ったことを国内外に宣言した。佐藤氏はノーベル平和賞受賞にこれは大きなボーナス加算となったことであろう。ところが佐藤内閣はその裏でとんでもない密約を取り交わしていたのであった。一つは、緊急時の核持ち込み容認と朝鮮半島有事に際し自由に沖縄の基地を利用できるという事前協議(1960年安保条約に付随する岸・ハーター交換公文)をスルーする密約、もう一つは沖縄返還による基地再編のための費用や過去の基地使用に伴うさまざな補償金などの支払いに関する密約である。
 毎日新聞政治部記者太吉氏は、後者の密約のうちほんの一部に過ぎない軍用地復元補償費400万ドルの支払いに関する密約の存在を示す極秘外務省公電の写しを入手した。米側は、当時の国内事情から、沖縄の施政権返還に関して一切米側負担なしという強硬な姿勢をとっていた。日本側は基本的にはこれに応じるものの、対米請求権のうち軍用地復元補償費は過去の経緯に照らし米側負担であることは譲れないとの主張を繰り返していた。米側も議会で説明済みだからその点については譲れないとの一点張りであった。その結果、表に出る沖縄返還協定においては米側が自発的に支払うことを確認しつつ、軍用地の復元費用として400万ドルを日本政府が負担するとのやら約束(密約)を取り交わしたのであった。
 当時、佐藤内閣は、沖縄返還協定を調印し、これを手土産に参議院選挙を有利に戦うという政治日程を組んでいた。だから沖縄返還協定の早期調印にこぎつけたいが、かといって米側負担と繰り返し主張してきた軍用地復元補償費400万ドルを日本負担と認めてしまえば、国民から大きな批判を受け、選挙戦にマイナス要因となる。そこで上記の如きトリックを使ったのである。西山記者は、これは国民を欺瞞するやり口であると考え、入手した極秘公電の写しに基づき、1971年6月18日、毎日新聞に3500字ほどの長文の署名入り記事を書き、その中で密約を公表するのではなくその存在を示唆するにとどめた。
 しかし、国会では密約が存在するとの野党の追求に対し、佐藤内閣・外務省は、野ノラリクラリとシラを切り通した。西山記者を通して間接的に外務省公電文書写しを所持していた野党議員が動かぬ証拠とばかりに、これを突き付けた。それが1972年3月のことであった。一旦、守勢にまわった佐藤首相は、直ちに反撃を開始、同年4月初め、漏えい元のH外務事務官と西山記者を逮捕させ、ここに日本の言論史上に残る西山事件が始まった。
 西山事件は、奇妙な展開を遂げる。共同被告人であるH事務官は、逮捕後数日して自白を始めるや態度を一変、西山記者を攻撃する立場に転換し、公判でも検察側に協力して西山記者を攻撃した。検察側は、H事務官の描くストーリーに沿ってH事務官が西山記者に極秘公電写しを交付した経緯を構成して、取材の手段・方法の不当性を立証した。しかし西山記者側は、取材源の秘匿ができず、H事務官に大きな苦痛を与えたとの自責の念から、一切、こういう経緯に関して反撃をせず、密約の存在を示すだけの極秘公電文書は秘密として保護されないものである、取材活動は憲法21条の表現の自由・知る権利に不可欠であり、正当業務行為と違法性が阻却されるとの主張・立証に絞った。
 西山記者に対する判決は、一審無罪、控訴審逆転有罪(懲役4月、執行猶予1年)、上告審は上告棄却で、有罪が確定した。
 西山事件最高裁判決(1978年5月31日)は「(報道機関の取材活動は)それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会通念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為だというべきである。」が、「(報道機関の取材活動が)一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、(略)一般の刑罰法令に触れないものであっても、(略)法秩序全体の精神に照らし社会通念上是認することができない態様のものである場合にも正当な取材活動の範囲を逸脱し違法性を帯びる」との判断を示している。
 西山事件は、ある黒いプロデューサーによって、H事務官は一方的な犠牲者である⇒西山記者は当初から機密文書を取得する目的でH事務官と関係を持ち、その後も拒絶できない状態のH事務官をあやつり、機密文書を人倫に反する方法で取得していた⇒不当な取材活動であったとのストーリーがつくられ、西山記者側が、上述の事情で、これに対する反撃を差し控えたためにそのとおりの事実認定がなされてしまったのである。この事実に鑑み、特定秘密保護法案22条2項に取材行為は、「専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によると認められない限りは、これを正当な業務による行為とする」と規定したからといって取材活動が守られるわけではないことは容易に理解できるだろう。

(3)小括
エルズバーグ事件と西山事件、日米の言論史に残る著名事件の推移を比較してみると、米国は合衆国憲法修正1条に定める表現の自由・知る権利の保障において、同じく日本国憲法21条により表現の自由・知る権利が保障されている我が国よりもはるか前方を進んでいることが一目瞭然である。


5 まとめ

特定秘密保護法案には、集団的自衛権行使容認を前提とするものであること、立法事実の不存在及び特定秘密の範囲が広範で不明確であり罪刑法定主義に反することなど根本的問題点があるほか、各論的に言えば、特定秘密指定の適正・公正さを担保する仕組みを欠くこと、指定期間が更新を繰り返されることにより結局は無限定となること、指定解除を強制する手続きがもうけられていないこと、特定秘密に指定された情報の廃棄禁止と公文書館に移行するなど保全する仕組みが用意されておらず、また最終的には開示されるとの保障規定がないこと、秘密保護には万全であるが情報公開制度は極めて貧弱であること、適正評価制度がプライバシーや思想、内心の自由を侵害する恐れがあること、公益目的による内部通報者不処罰及び公益目的で特定秘密を取得し、公表しようとるすジャーナリスト、研究者、市民運動家及び一般国民の不処罰を定めていないこと、立法機関、司法機関の職務上の権限を制約することなど多くの問題点が指摘されている。
 本稿により、本法案の原動力ともなったジーソミア締結の当事国である米国の秘密保全法制と対比して、特定秘密保護法案はあまりにも検討するに値いしないほどに杜撰かつ拙劣な法案であることが明らかとなった。表現の自由、知る権利の発展途上国である我が国において、このような法案が成立させることは到底考えられないこと、許しがたい暴挙と言わざるを得ない。
 私は、まずは廃案とし、冷静な目で、新たな秘密保全法制の必要性を一から検討し直すしかないと考え、一石を投じるものである。
(了)


参考文献
1 田島泰彦・清水勉「秘密保全法制批判」(日本評論社)
2 井上正信「徹底解剖秘密保全法」(かもがわ出版)
3 国立国会図書館調査及び立法考査局法務課今岡直子「諸外国における国家秘密の指定と解除 ―特定秘密保護法案をめぐって」
4 永野秀雄「米国における国家機密の指定と解除 ―わが国における秘密保全法制の検討材料としてー」 Hosei University Repository
5 佐藤英善「公務員の守秘義務」(早稲田法学会誌63巻3号)
6 ダニエル・エルズバーグ「ベトナム戦争報告」(筑摩書房1973年9月刊)
7 澤地久枝「密約外務省機密漏洩事件」(岩波現代文庫)






コメントの投稿

非公開コメント

IWJ
岩上安身責任編集 – IWJ Independent Web Journal
プロフィール

金吾

Author:金吾
twitter: kingo999

カテゴリー
カレンダー
08 | 2017/09 | 10
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
最新記事
検索フォーム
リンク
amazon
おすすめ記事