「関西電力大飯原発3,4号機運転差し止め訴訟」判決文

5/21 関西電力大飯原発3,4号機運転差し止め訴訟 福井地裁判決謄本
http://www.cnic.jp/5851

判決文一部書き出し

第4 当裁判所の判断

1.はじめに
ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命, 身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には, その被害の大きさ, 程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。 このことは, 当然の社会的要請であるとともに, 生存を基礎とする人格権が公法、私法を問わず、すべての法分野において、最高の価値を持つとされている以上、 本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。
個人の生命, 身体, 精神及び生活に関する利益は, 各人の人格に本質的なものであって, その総体が人格権であるということができる。 人格権は憲法上の権利であり (13条, 25条) , また人の生命を基礎とするものであるがゆえに, 我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。 したがって, この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは, その侵害の理由、根拠、侵害者の過失の有無や差止めによって受ける不利益の大きさを問うことなく, 人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる。人格権は各個人に由来するものであるが, その侵害形態が多数人の人格権を同時に侵害する性質を有するとき, その差止めの要請が強く働くのは理の当然である。


5.冷却機能の維持について
この地震大国日本において, 基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは根拠のない楽観的見通しにしかすぎない上、基準地震動に満たない地震によっても冷却機能喪失による重大な事故が生じ得るというので'あれば、 そこでの危険は, 万が一の危険という領域をはるかに超える現実的で切迫した危険と評価できる。 このような施設のあり方は原子力発電所が有する前記の本質的な危険性についてあま り にも楽観的といわざるを得ない。


6.閉じこめるという構造について (使用済み核燃料の危険性)
使用済み核燃料は本件原発の稼動によって日々生み出されていく ものであるところ、使用済み核燃料を閉じ込めておくための堅固な設備を設けるためには膨大な費用を要するということに加え, 国民の安全が何より も優先されるべきであるとの見識に立つのではなく, 深刻な事故はめったに起きないだろう という見通しのもとにかような対応が成り立っているといわざるを得ない。


7.本件原発の現在の安全性 と 差止めの必要性について
以上にみたよ うに, 国民の生存を基礎とする人格権を放射性物質の危険から守るという観点からみると、本件原発に係る安全技術及び設備は、万全ではないのではないかという疑いが残るというにとどまらず、むしろ, 確たる根拠の ない楽観的な見通しのもとに初めて成り立ち得る脆弱なものであると認めざるを得ない。
前記4に摘示した事実からすると, 本件原子炉及び本件使用済み核燃料プール内の使用済み核燃料の危険性は運転差止めによって直ちに消失するものではない。 しかし, 本件原子炉内の核燃料はその運転開始によって膨大なエネルギー離を発出することになる一方, 運転停止後においては時の経過に従って確実にエネルギーを失っていく'のであって, 時間単位の電源喪失で重大な事故に至るようなことはなくなり、破滅的な被害をもたらす可能性がある使用済み核燃料も時の経過に従って崩壊熱を失っていき, また運転停止によってその増加を防ぐことができる。そうすると, 本件原子炉の運転差止めは上記具体的危険性を軽減する適切で有効な手段であると認められる。
現在, 新規制基準が策定され各地の原発で様々な施策が採られようとしてい るが, 新規制基準には外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられ るまで強度を上げる, 基準地震動を大幅に引き上げこれに合わせて設備の強度を高める工事を施工する, 使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む等の措置は盛り込まれていない(別紙4参照) 。 したがって, 被告の再稼動申請に基づき, 5, 6に摘示した問題点が解消されることがないまま新規制基準の審査を 通過し本件原発が稼動に至る可能性がある。 こうした場合, 本件原発の安全技術及び設備の脆弱性は継続することとなる。


8.原告らのその余の主張について
原告らは, 地震が起きた場合において止めるという機能においても本件原発 には欠陥があると主張し(訴状第5の3、第2準備書面第3、第4準備書面第2) , また、冷却材喪失事故発生時においそ冷却水の再循環サンプが機能しないという安全技術上の欠陥 (訴状第5の1、第7準備書面1) , 3号機におけ る溶接部の残留応力によるクラツク及び冷却水漏洩の発生の危険性 (訴状第5の2, 第7準備書面2) , 津波による危険 (第5準備書面、第9準備書面) ,テロによる危険 (第1準備書面第3の3, 第16準備書面第5) , 竜巻の危険(第1準備書面第3の3) 第16準備書面第4) 等さまざまな要因による危険性を主張している。 しかし, これらの危険性の主張は選択的な主張と解され,上記の地震の際の冷やすという機能及び閉じ込めるという構造に欠陥が認めら れる以上, 原告らの主張するその余の危険性の有無について判断の必要はないし、環境権に基づく請求も選択的なものであるから (第6回口頭弁論期日調書参照) , 同請求の可否についても判断する必要はない。
原告らは, 上記各諸点に加え, 高レベル核廃棄物の処分先が決まっておらず、同廃棄物の危険性が極めて高い上、その危険性が消えるまでに数万年もの年月を要することからすると, この処分の問題が将来の世代に重いつけを負わせることを差止めの理由としている (第3の4) 。 幾世代にもわたる後の人々に対ずる我々世代の責任という道義的にはこれ以上ない重い問題について, 現在の国民の法的権利に基づく差止訴訟を担当する裁判所に, この問題を判断する資格が与えられているかについては疑問があるが, 7に説示したところによるとこの判断の必要もないこととなる。


9.被告のその余の主張について
他方, 被告は本件原発の稼動が電力供給の安定性, コストの低減につながると主張するが (第3'の5) , 当裁判所は, 極めて多数の人の生存そのものに関 わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり, その議論の当否を判断すること自体, 法的には許されないことであると考えている。 我が国における原子力発電への依存率等に照らずと、本件原発の稼動停止によって電力供給が停止し, これに伴なって人の生命旦身体が危険にさらされるという因果の流れはこれを考慮ずる必要のな浴状況であるといえる。
被告の主張においても, 本件原発の稼動停止による不都合は電力供給の安定性, コス トの問題にとどまっている。 このコス トの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが, たとえ本件原発の運転停止によつて多額の貿易赤字が出るとしても, これを国富の流出や喪失というべきではなく, 豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり, これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。
また, 被告は, 原子力発電所の稼動がCO2 (二酸化炭素) 排出削減に資すろもので環境面で優れている旨主張するが (第3の6) , 原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすきまじいものであって, 福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害, 環境汚染であることに照らすと, 環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである。


10.結論
以上の次第であり) 原告らのうち, 大飯原発から2 5 0キロメートル圏内に居住する者 (別紙原告目録1記載の各原告) は、本件原発の運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険があると認められるから, これらの原告らの請求を認容すべきである。
原告らは, 本件原発で大事故が起きれば, 周囲の原子力発電所の従業員も避難を余儀なく されること等によりその原子力発電所が事故を起こし、同様のことが繰り返される結果、日本国民全員がその生活基盤を失う よ うな被害に発展 すると主張している。また、チェルノ ブイ リ事故においては放射性物質に汚染された地域がチェルノブイリから1000キロメートルを超える地点まで存在するから原告ら全員が本件請求をできると主張している (第3の'7) 。 これらの主張は理解可能なものではあるが、ここで想定される危険性は本件原発とい う特定の原子力発電所の法的な差止請求を基礎付けるに足りる具体性のある危険とは認められない。 したがって, 大飯原発から2 5 0キロメー.トル圏外に居_住する原告ら(別紙原告目録2記載の各原告) の請求は理由がないものとして, これを棄却することとする。





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